TOP > 今月のコラム一覧 > 87

お墓の承継

 大切な人が亡くなった後、お骨を納めるお墓。普段意識することは少ないお墓ですが、相続に際してお墓を誰が承継するか、トラブルが起きないように考えておく必要があります。

 まず、お墓に対する権利はどうなっているでしょうか。「お墓」については、墓地の使用権(永代使用権などと呼ぶことがあります)と墓地の上の墓石の所有権の2つがあります。墓地については、現在ほとんどの場合、「所有権」ではなく「使用権」を有しているという関係が多いと思われます。公営墓地の場合には、自治体による「使用許可」に基づいて、民営墓地の場合には墓地使用権を設定する「契約」に基づき「墓地を使用する権利」が設定されるのが通例です。つまり「お墓を買う」というのは、正確には「墓地としての使用権」を購入していることになります。
 その使用権に基づき、墓石を墓地の上に建てることになります。墓石については、建立者の所有権が成立することになります。

 そこで、墓石の所有権と墓地の使用権を有するAさんが亡くなった場合、その権利はどのように引き継がれることになるのでしょうか。
 第一には、Aさんが生前ないしは遺言によって指定した人が、その権利を引き継ぎます。お墓や墓地の使用権は、「祭祀財産」という特殊な財産として扱われ、基本的には複数の人に引き継がせることはできず、だれか一人の単独での承継となります。

 Aさんによる祭祀財産の承継者の指定がない場合には、第二に慣習によって、引き継ぐ人が決定されることになります。しかしこの「慣習」は、必ずしも明確でなく、地方や時代によって異なるため、家意識が希薄になりつつある現在ではあまり解決の基準として役立たないのが実情です。

 慣習によって決めることができない場合には第三に、調停や審判といった手続きで最終的には家庭裁判所が決定することになります。
 実際上は、Aさんの指定がない場合には、遺産分割の協議をする際に祭祀財産についての承継者を相続人間での話し合いで決めることがほとんどです。その際には、生前のAさんが、お墓の引継ぎについてどのような希望を持っていたか、Aさんとの関係の密度、お墓と承継者の居住地との距離、年齢、祭祀財産の管理に関する意欲や能力などを総合的に踏まえ、もっとも適切かつ安定的にお墓を管理できる人を選ぶことになるでしょう。話し合いでどうしても決められない場合には、裁判所に決めてもらうしかありません。

 祭祀財産の承継者が決まったら、そのことを遺産分割協議書に明記しておいたほうが、後日の紛争を防ぐために有益です。また、墓地の管理者(霊園や寺院の管理者)にも連絡をし、必要な届出等の手続きも済ませる必要があります。

(一由)