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窃盗症(クレプトマニア)

何度も万引きを繰り返す人がいます。
低額のものを万引きした場合,当初は,警察に通報されても,通常は,決まった住所があれば逮捕されることはなく,起訴されることもありませんが,何度も繰り返すと,逮捕される場合もあります。逮捕されない場合でも,略式命令により罰金が科されます。

 それでもまた万引きをしてしまうと,正式な裁判となり,執行猶予付きの懲役刑が科されます。執行猶予中にまた万引きをして起訴されると,実刑の判決がなされ,刑務所に行くことになってしまいます。
万引きは,刑法の窃盗罪にあたり,法律上は,最高で10年の懲役が科せられる可能性があります。
何度も万引きを繰り返す人はそれがわかっていても,つい盗んでしまうのです。

 一般には,あまり知られていませんが,万引きを繰り返す人は,精神疾患の1つである窃盗症である場合もあります。
窃盗症は,米国の精神疾患の診断基準であるDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders,精神障害/疾患の診断・統計マニュアル)にも記載されています。ギャンブル依存症や買い物依存症,アルコール・薬物依存症などと同様の衝動性制御障害の1つです。

精神疾患であるからといって,悪いことをしたという認識は認められる場合がほとんどですから,窃盗症だからといってその罪が軽くなることはほとんどありません。

窃盗症の人をいくら反省させても,処罰しても,治療しない限り,窃盗を繰り返してしまいます。適切な治療と周囲の人のサポート,何よりも本人が窃盗症であると認識することが必要です。

日本に治療してくれる専門の精神科医は少ないようですが,自分にあった専門医をみつけ,さらに,当事者や家族の自助グループに参加することで,窃盗をやめ続けることを目指すという方法があります。長野にも自助グループがあり,当事者だけが参加するものと家族も参加可能のものとそれぞれ月1回開かれているようです。家族の方は,万引きする度に販売店や警察に呼び出されるため,疲れ果てている方が多いです。当事者も家族も同じ悩みを持つ方との交流をするだけでも気持ちが楽になると思います。それが窃盗を繰り返すことを防止することにつながります。

(文責:匂坂)