日本の小説を英語で読む~英語で読む村上春樹… 2014年7月
今やノーベル文学賞受賞も秒読みの村上春樹さん。私は,高校生のころからの村上ファンですが,最近,英語でその小説を読んでみる,というこれまでとは違った楽しみを見つけました。
NHKのラジオ講座「英語で読む村上春樹」は,村上作品をあえて英語で読んでみようという企画で,今年は作品「踊る小人」という短編小説が題材になっています。村上作品は英語に翻訳されて海外でも広く読まれていますが,その英語翻訳版をあえて英語で読んでみる,ということで毎回少しづつ小説を読み進めていくことになります。
「英語で小説を読む」,というと難解な印象を受けますが,実際に読んでみるとそのようなことなく,高校卒業程度の英語力があればほとんど辞書を引かずにスラスラと物語の筋を追うことができます。
文章の一つ一つについて,講師の解説つきで,なぜその表現なのか,同じような意味の他の単語や構文ではなく,あえて英訳者がその単語や構文を使ったのはなぜか,それがどのような文学的な効果を生むのか,などを味わいながら小説をじっくり読んでいくのは大変楽しく,新鮮です。私は普段法律のことを仕事にしていて左脳ばかりを使っていますが,普段使わない右脳が揉みほぐされるようで,息抜きとしても心地よいものです。
例えば以下のような日本語原文を英訳するとしたらどうなるでしょうか?2つの訳を比べてみてください。
日本語原文「チャーリー・パーカーの猛烈に早い音符を体に吸い込みながら,小人は疾風のように踊った」
訳1「Absorbing the incredibly upbeat notes played by Charlie Parker,the dwarf danced like a gust of wind.」
訳2「His body whirled like a tornedo,sucking up the wild flurry of notes that poured from Charlie Parker’s saxophone.」
どちらの訳が原文の表現を的確に表現しているか,それぞれ感じ方はあるかと思いますが,やはり訳2のほうが躍動感にあふれた良い訳であることは異論がないのではないでしょうか(訳1はラジオ講座の日本人講師の訳,訳2はジェイ・ルービンという村上作品を実際に翻訳している名翻訳家の訳だそうです)。
全体的に訳1は正確ではありますが,大学受験の英作文のような感じの文章ですが,訳2はそういう感じを受けませんね。
例えば,訳1では主語を「dwarf」としているのに対し,訳2の主語は「His body」として,踊る小人の身体そのものを強調する表現になっています。また,チャーリー・パーカー(天才的なジャズ・サックス奏者)の音符云々の表現についても,パーカーの無尽蔵に溢れ出るようなサックスの音が,訳2では「flurry of notes」,「poured from」という表現でうまく表現されているのに対し訳1の「upbeat notes」は意味は通じますが,説明的で味気ない表現になっていると思います(これは実際にパーカーの演奏を聴いたことがない人にはピンと来ないかもしれませんが,実際にその演奏を聴けば納得するはずです)。
このように,同じ文章を翻訳するにも訳者によってその感性,原作の理解の差が問われるわけで,翻訳って本当に奥の深いクリエイティブな作業なのです。同時に日本語の奥深さ,難しさも再認識することができますので,関心のある方はぜひラジオ講座を聴いてみてください。
(文責:一由)
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