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 刑事弁護の意味 2011年11月

先日、同期の弁護士から、「宮下さん、○○さんの刑事事件を以前やったでしょ?」と聞かれたことがありました。私にとっては、まだ弁護士駆け出しの頃、がむしゃらにやった刑事事件の被告人の名前でしたので、「よく覚えているよ。」と答えました。

 と同時に、同期の弁護士がそのことを聞いてきた意味をすぐ理解し、とても切ない気持ちになりました。つまり、また再犯をしてしまったというわけです。
 当時、弁護を担当した時の罪名は「住居侵入窃盗」でした。
 50代の男性で一人暮らし。働き盛りなのに職を失い、食べるものもないほど生活に困って空き巣に入ったというものでしたので、何とか立ち直るための弁護をしてあげたいと思い、国選弁護人を引き受けることにしたのです。

 しかし、最初に留置場で会った彼は、身内のことを聞いてもしゃべらない、心からの反省もない、ふて腐れた態度をとり、挙げ句には私に嘘をつくなど弁護活動のやりようのないものでした。
 その後、何度も姿勢を正させ、喧嘩をし、次第に彼との間で信頼関係が築けてきたことに喜びを感じながら、「また社会復帰しましょう。」、「謝罪して一からやり直そう。」と励ましていったのです。
 そして、ようやく心を開いた彼から、親族、兄、幼なじみの友人の存在を聞き出し、それぞれ手書きの地図から家を捜し出して訪ねました。兄には事情を説明した上で協力を頼み、被害弁償に奔走すると共に、情状証人として生活全般の面倒を見てもらう約束を取り交わしました。また、幼なじみの友人には当面の間、自営業の仕事の面倒を見てもらうことを証言してもらい、無事、執行猶予判決をもらうことができました。

 今でも忘れられないのは、被害弁償を申し出たところ、被害者の方から「被害弁償は受け取れない。生活の再建のために使って何とか立ち直ってくれ。」と言われ、彼が固く更生を誓ったことでした。
 判決後もしばらくは彼のことが気にかかり、生活はできているか、仕事には行けているかなど連絡を取っていました。
 数ヶ月後に、仕事がなくなったため、生活保護を受けることになったと連絡がありました。これにより、当面は大丈夫だろうと次第に私も連絡を取らなくなっていきました。
 そんな彼の存在も忘れかけていた矢先に、同期の弁護士から連絡がきたのです。

 なぜ、生活保護を受けながら再び犯罪に手を染めてしまったのであろうか。私や周りの人間との約束はどうして守れなかったのだろうか。なぜ、再犯をする前に私に連絡をくれなかったのだろうか・・・。一人で考えても答えが出ない疑問がグルグル回り始めました。
 結論として考えたことは、再犯してしまった彼自身に一番責任があることは事実ですが、それにはきっと何か理由があったのだろう。そして、その何かの理由を知り、取り除くことや軽減することが弁護士に求められているのではないかということでした。
 自分は、その理解がまだ足りなかったのかも知れません。

 刑事弁護としての活動は、裁判が終わるまでではなく、その被告人が真に立ち直れるまで終わりはないのではないかと考えさせられる出来事でした。

(文責:宮下)