なぜ光速度を超えられないとされているのか 2011年10月
初めまして。2011年8月に入所しました山田と申します。よろしくお願い致します。
私は幼いころ根っからの理科少年で、大学でも理学部に進学しました。そんな元・理科少年の私を興奮させるニュースが先日発表されました。皆様も新聞等でご存じであろうあのニュースです。
9月23日、欧州原子核研究機構(CERN)で、素粒子の一種であるニュートリノが光より速く移動することを示す観測結果が得られた旨発表されました。この発表には衝撃を受けました。特殊相対性理論によると光よりも速いものはないとされているからです。そこで、そもそも、どうして光の速さ(光速度)より速く移動できないのか、久しぶりに特殊相対性理論の教科書をひもときました。今回のコラムでは特殊相対性理論の雰囲気をお伝えしようと思います。
まず、特殊相対性理論の議論は、「相対性原理」と呼ばれる原理を土台としています。相対性理論は、この相対性原理から推論を重ねてできあがった理論です。そして、相対性原理とは何かと言いますと、非常に不正確な説明で恐縮ですが、自然法則は誰から見ても同一だという原理です(なお、この相対性原理は経験的に示されているものです。)。
次に、物と物との相互作用は瞬間的には伝わらないことも経験的に知られています。例えば、糸で吊るした磁石を二つ並べたとして、一方を動かした場合に他方も磁力の影響で動く様子を想像してみてください。このとき、一方の磁石を動かしたことにより、その周りの空間にある磁力がじわじわ変化して、ついには他方の磁石を動かす、そんなイメージです。このように、離れた物体間の相互作用は時間をかけて伝わります。0秒では伝わりません。ですから、相互作用の伝わる最高速度が存在するはずです。ところで、先ほどの相対性原理から、この最高速度は誰から見ても同一となります。
以上を踏まえて、一所懸命計算していくと、その最高速度は光速度だということが示されます(結局、誰が観測しても光速度は一定だということになりまして、これは光速度不変の原理と呼ばれています。)。
ところが、前記の発表によると、ニュートリノが光速度より速く運動するというのです。これは、ある物体1から、ぷっと光速度以上の速さのニュートリノが飛び出て、そのニュートリノが別の物体2にぶつかるという形で、物体1から物体2への相互作用が光速度を超えて伝わることもあるということになる可能性があるということを意味するかもしれません。そうすると、相互作用の伝わる最高速度は光速度であるという帰結と整合しないように見えますね。相対性理論を信じ切っていた人には驚きの結果ではないでしょうか。
以上で今回のコラムを終えますが、特殊相対性理論の雰囲気と前記発表に私が驚いた様が読者の皆様に伝われば幸いです。なお、文字数の関係で特殊相対性理論につき非常に不正確な説明をしております。正確な内容を知りたいという方は、岩波文庫から出ている「相対性理論」(アインシュタイン)などの文献にあたってください。アインシュタインの原論文の和訳と一般向けの解説が収められています。相対性原理と光速度不変の原理から様々な結論が演繹的に示される様子は非常に美しいです。
また、今回のコラムを執筆するにあたっては「場の古典論」(ランダウ、リフシッツ)という本を参考にしておりますが、内容上の誤りは私の責任です。
(文責・山田)
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