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 長野での弁護士生活(2) 2011年8月

  とある経緯で、司法試験受験情報誌の「受験新報」(法学書院)という月刊誌に「弁護士北から南から」という連載を担当させていただく機会がありました。
 受験生向けのコラムですが、弁護士の日常を分かりやすく記載しておりますので、先月から3回に分けてホームページでもご紹介させていただきます。
 なお、文章は「受験新報」に掲載されたものをそのまま引用しております。(文責:宮下)


 全3回にわたり、地方の弁護士事情について連載する機会をいただいた。前回は長野県弁護士会の実情について詳述したので、今回は日々の業務や仕事を通じて感じていることを述べたいと思う。

  1. 民事事件
    (1)日々の業務の約7割を占めるのは、やはり一般民事事件である。中でもその半分近くは多重債務問題である。
     借金で首が回らなくなってしまった人は、その負債総額や収入、借入の原因等を聞き取り、破産するか個人再生、もしくは債権者と交渉して減額弁済していくことになる。

    (2)一方、サラ金などに制限超過利息を支払ってしまった場合のいわゆる過払金返還請求は、私が弁護士なりたての頃は、電話一本で解決することも多かったが、現在は訴訟にして、判決をとって執行しても回収できないケースが多くなってきている。

    (3)多重債務問題の解決は、他の事件と比べて定型化した部分も多いが、借金で困っている人は1人1人が深刻な悩みを抱えており、取立てが止み、将来のビジョンが見えてくると、当初とは別人のような明るい笑顔を見せてくれる。やはりこれも重要な弁護士としての業務であることを痛感させられる。

    (4)多重債務以外の一般民事事件では、不動産売買でのトラブル、動産の引渡請求、賃貸借契約トラブル、境界紛争、会社の売買、交通事故、労働事件、請負代金請求、欠陥住宅トラブル、霊感商法被害、生活保護申請等々実に様々な事件が舞い込んでくる。
     最近では、出会い系サイトの消費者被害やインターネットへの書き込みの名誉棄損など時代を反映した事件も時々受任する。
     私の所属事務所は、基本的に困っている人を助けることをモットーとしており、他の事務所で断られた人も受任する。もちろん、事案を聞いた上で受任できないもの(やり様のないもの)もあるが、その際、なぜダメなのかを説明して、納得してもらうようにする。弁護士をたらい回しにしても本人のためにならないし、やり様がない中で解決策や考え方を示すことも弁護士に求められているからである。

    (5)以前、市の法律相談をした中に、高齢のお爺さんがいた。相談内容は、「自分の軍人年金よりも生活保護費の方が高いことに納得がいかない。何とかしてくれ。」という内容であった。当然、立法政策の問題であり、解決不可能な事案ではあったが、残りの人生を解決しない問題を抱えて悔しい思いをして過ごすよりも、他に生き甲斐や楽しみを見つけて明るく過ごす人生の方がいいのではないかと若造ながら時間をかけてお話しした。
     最終的に納得して帰ったのか否かは分からないが、最初に相談に見えた時より笑顔で帰って行かれた姿を見て、これはこれで良かったのかなと思った。

    (6)境界紛争、住宅トラブル等はやはり現地に赴き、調査することが基本であり、そのための出張はやはり楽しい。事務所でじっとしていられない私は、気分転換も兼ねて積極的に現地調査に行くことようにしている。
     また、依頼者と一緒にお茶を飲み、お茶菓子を戴きながら話を聞くことも密かな楽しみである。

  2. 刑事事件
    (1)地方においては、頻繁に刑事事件が舞い込んでくる。しかも支部や過疎地の弁護士であれば尚更である。地方の弁護士は、ベテラン、中堅、若手を問わず、弁護士の原点は刑事弁護であると気概を持った先輩が多いことに感銘を受ける。特に国選事件では、労力や活動の割に報酬が低いからである。
     また、事件の種類も様々で、窃盗、詐欺、傷害、強制わいせつ、出資法違反、強盗殺人等何でもある。私が最初に受任した刑事事件は贈収賄事件であった。初めての法廷の裁判官、検察官が指導担当であったことも印象に残っている。情状証人に「大丈夫です。落ち着いてください。」と言いながら、自分が一番緊張していたのも懐かしく思い出される。
     事件数は、多い時で6件、少なくても2件ほど常に抱えている状態である。地方では裁判員裁判が適度に回って来るため、若手はほとんど経験済みである。

    (2)よく、被害者の味方(代弁者)になれるのは検察官であるとの言葉を聞くが、弁護士も被害弁償や謝罪を通じて被害者と加害者の関係修復を図れる点で、検察官以上に被害者の味方になれると感じる。
     また、いかに再犯を防ぐかや社会復帰をスムーズにすることも弁護士としての力量が問われていると思う。場合によっては、執行猶予後に更生保護施設や生活保護の同行申請もすることもある。

    (3)刑事弁護での密かな楽しみは、接見の帰りにゴルフの練習場に行ってストレスを発散し、その後、温泉に浸かって帰ってくることである。
     これも地方の弁護士ならではと思う。

  3. 家事事件
    (1)家事事件も受任事件としての割合が多く、離婚や親権問題、DⅤ、相続、成年後見など人生の重要局面で弁護士が関わることになる。
     私は、男性弁護士の割に相続問題よりも離婚やDV事件が多い。
     最近の離婚事件の特徴は、浮気についても自分たちの携帯電話に不倫のメールや画像、動画を残すことが挙げられる。また、DVも夫から妻への事案のみならず、妻から夫へのDVも何件か散見される。

    (2)離婚事件やDV事案での対処は、当事者は感情の塊を持ち込むケースが多いため、受け止められるものは受け止め、法的論点を的確に整理することに力を費やすことが多い。
     もちろん、本人の気持ちを蔑ろにはできないため、うまく気持ちを落ち着かせてもらうことも大切である。

    (3)離婚事件も、世間的にはマイナスの印象が強いが、本人にとって人生の再出発となり、そのための後押しができることは弁護士として非常にやりがいを感じる事件だと思う。また、事件終了後に依頼者から元気な声を聞けると、心から嬉しく思う。

  4. 少年事件
    (1)非行を犯した少年は、成人と同じように逮捕・勾留される。その後、家裁送致されると、弁護士は付添人として活動することになる。
     少年は、接見をして対話を重ねていく中で、最初会ったときとは見違えるほど成長することが多い。そのため、私は積極的に少年事件を引受け、非行に至ってしまった原因を一緒に考え、その少年に将来を向いてもらうことにやりがいを感じている。

    (2)先日も、同じ少年で3回目の付添人を終えたところであったが、非行の度に成長していく姿に感動を覚えた。今度こそは立ち直ってくれることを信じている。

(つづく)