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 長野での弁護士生活(1) 2011年7月

 とある経緯で、司法試験受験情報誌の「受験新報」(法学書院)という月刊誌に「弁護士北から南から」という連載を担当させていただく機会がありました。
 受験生向けのコラムですが、弁護士の日常を分かりやすく記載しておりますので、今月から3回に分けてホームページでもご紹介させていただきます。
 なお、文章は「受験新報」に掲載されたものをそのまま引用しております。(文責:宮下)

  1. はじめに
     私は、平成19年に新司法試験に合格し、1年間長野で修習した後、そのまま長野で弁護士をすることになった。
     一時は東京で就職しようとも考えたが、東京は既に弁護士が過剰になりつつあったこと、元々生まれも育ちも長野であり、修習の際にも多くの地元弁護士にお世話になったことなどから長野での登録を決めた。
     また、地方で弁護士を始めてから分かったことであるが、大都市で弁護士をしている同期よりも、一般事件に関しては幅も広く、様々な経験が早期にできるという魅力が地方にはある。もちろん、就職した先の事務所にもよるのであろうが・・・。
     今年で弁護士登録3年目となるが、働き始めてからあっという間の時間であった。
     そこで、今回の執筆を機に、これまでの弁護士活動を振り返ってみようと思う。併せて、これから法曹を目指し、とりわけ地方での弁護士活動に興味がある受験生の方々に、少しでも有意義な情報提供の一助となれば幸いである。
     ついては本文の構成を全3回に分け、今回は長野県の弁護士事情を、第2回目は私が扱っている事件の概要を、そして最終回は今後期待される弁護士像、受験生へのメッセージを中心に書き進めたいと思う。
     なお、今回は多少固い話が多くなるが、ご了承願いたい。

  2. 長野県の弁護士事情
    (1)支部について
      長野県は4番目に広い都道府県であり、南北に長く、長野市にある裁判所本庁の他、松本、諏訪、上田、佐久、伊那、飯田に支部も6つある。私が中心的に活動する長野から一番遠い飯田(私の故郷)までは、高速道路を飛ばしても約2時間30分要する。
       長野県は、他の県と比較して支部間での極端な弁護士数の偏りが少ないことが特徴である。もちろん、長野・松本以外の支部では弁護士が充分に足りているとまでは言い難い状況にあるが、一番少ない伊那・飯田各支部でも9名ずつ弁護士が事務所を構えている。
       また、民事事件は支部間を越えて事件を受任することもあり、全県を股に掛けて活動する弁護士も見受けられる。
       一方の刑事事件は、国選事件については各支部の「在住会」(注:長野では支部におけるそれぞれの弁護士の集まりの単位を在住会と呼ぶ。)ごとに割り振られ、運用も任せられており、基本的には支部ごとに事件が回っているといえる。

    (2)弁護士人口
      平成22年1月には、長野県全体で165名の弁護士が登録していた。
      しかし、平成23年1月には、わずか1年で17名増え、現在182名が登録している。これは約1割が1年間で増えた計算であり、弁護士増員の波が地方にも押し寄せてきたことが窺える。
      そのため、平成22年度は弁護士会全体で弁護士増員問題について議論する機会が多かった。そして、司法試験受験生には耳の痛い話ではあるが、秋の臨時総会では大議論の末、圧倒的多数で「司法試験合格者1000名決議」が可決された。その内容は、段階的に司法試験合格者数を今の2000名から減らしていき、最終的には年間1000名程度とするというものである。私自身は決議に反対であったが、やはり急激な弁護士増員に地方でも危機感・不安感が漂っているようであった。
      おそらく、司法試験合格者が2000名前後で推移していけば、長野県も数年で300名近い弁護士数になることは確実であろう。

    (3)委員会活動
      地方での弁護士活動の特徴として、委員会活動も挙げられる。委員会とは、子どもの権利委員会、人権擁護委員会、刑弁センター、消費者委員会などである。東京や大阪などの大都市では委員会活動といってもせいぜい1~2つ参加すれば良く、しかも積極的に参加しなくても特段の不都合はないと聞く(間違っていたらごめんなさい)。しかし、地方ではそうはいかない。少ない人でも3~4、多ければ10近い委員会で活動している。最近でこそ若手弁護士が増えてきたため、状況は変わりつつあるが、私も平成22年度は8つの委員会に入り、さらに関弁連(注:関東弁護士会連合会の略)の委員会にも参加した。
      地方では、やる気があれば多くの委員会に所属でき、貴重な経験の場が与えられる。
      委員会活動は、弁護士法1条の目的に照らしても不可欠な活動であるが、日々の活動においても役立つことが多い。そのため、私は積極的に委員会に参加するようにしている。
      委員会1年目は、どの委員会に参加しても、先輩弁護士が議論していることが理解できず、話についていくことが精一杯であった。2年目になり、ようやく議論している内容が分かるようになり、次第に議論に参加できるようになっていった。委員会では、現在生じている新しい問題が議論されることが多く、勉強にもなるし、面白かった。また、委員会後の懇親会では、様々な先輩弁護士や関係者と親睦を深められることも有意義であった。
      最近でこそ、抱えている事件と同じくらい力を注ぐ姿を見かねて、所長弁護士から「体が心配だ。少し控えるように」と釘を刺されてしまった。
      ここだけの話、それでも興味がある委員会には積極的に参加していきたいと思う。

    (4)対裁判所・対検察庁
      地方ならではかも知れないが、いい意味で三庁の仲がいい。ソフトボール大会を始め、懇親会、一審強化会(注:互いの改善点や要望について議論する)、各種三者協議会には自由に参加でき、議題も提出できる。要は顔が見えて、お互いに建設的な議論ができるのである。
    余談であるが、2~3ヶ月に一度の割合で裁判官も含めた同期会も行われており、県内の温泉旅行に行くのもまた一つの楽しみである。

  3. 長野県ならではの事件
     事件については、地方と都会とにおいて大きな差はないと思われる。私のようないわゆる街弁であれば、一通りの一般民事は受任し、刑事事件も大小様々である。民事はやはり離婚事件、多重債務事件が多いのは全国的な傾向であろう。
     強いて言えば、長野独特の事件として、農地がらみの事件、除雪に関する事件、温泉権に関する事件、スキー場の倒産、温泉旅館の再生などは多いかも知れない。一方で長野県は海に面していないため、海事事件は皆無と思われる。
     また、企業間の合併、渉外事件、特許等知的財産権がらみの事件は都市部に比べて圧倒的に少ない。
     逆に刑事事件は、都市部に比べて回ってくる率も高く、裁判員裁判もほぼ全ての若手弁護士は経験している状況である。

(つづく)