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業務中・通勤中の交通事故と労災保険、自賠責保険

1 業務中・通勤中の交通事故には、自賠責と労災保険の両方が適用可能

 通勤中ないしは業務中に交通事故に遭うということは、普通にあり得ることです。
 その場合、通勤中・業務中という点からみれば、労災事故として労災保険の適用があります(ただし、通勤中の交通事故であれば必ず労災保険が適用されるとは限りませんので注意が必要です。)。
 他方、交通(自動車)事故という点からみれば、自賠責保険の適用があります。
 では、そのような場合には、2つの保険の適用関係はどうなるのでしょうか?

2 被災者に選択権がある

 この場合、どちらも適用可能であるため、怪我をした人(労災の用語でいうと「被災者」)が、いずれの保険を使うかを選択することができることになります。
 特にそれを否定する法律上の根拠がないためです。
 ただし、行政(労災保険を管掌する厚労省と自賠責保険を管掌する国土交通省)サイドでは、両省で協議の上、原則として、自賠責保険による支払を労災保険による給付に先行させることとしています(昭和41年12月16日基発第1305号)。

 この通達があるためか、交通事故により労災保険の利用をしようとすると、労基署の窓口で、「自賠責保険をまず使ってください」と言われることがあるようです。
 もっとも、このような行政の通達は、国民を拘束するものではありませんので、交通事故の被害者(被災者)は、労災保険と自賠責保険の利用(通常は相手方任意保険会社による一括対応となりますが)のいずれかを選択して利用することができます。


 厚生労働省の「第三者行為災害事務取扱手引(平成17年2月1日付基発第0201009号)」においても次のような記載があります。

 「自賠責先行の原則を踏まえつつ、第一当事者等の意向が労災保険を希望するものであれば、労災保険の給付を自賠責保険等による保険金支払よりも先行させることとしているところであるが、労災保険の給付請求と自賠責保険等の保険金支払請求のどちらを先行させるかについては、第一当事者等がその自由意思に基づき決定するものであるため、その意思に反して強制に及ぶようなことのないよう留意すること」

3 行政が自賠責を先行させる理由

 行政の通達が自賠責保険を先行させる理由には、
(1)自賠責保険には仮払金や内払金の制度があること
(2)自賠責保険は、労災保険が対象としていない慰謝料等についてもカバーしていること
 など、労災保険より有利な場合が多いことが指摘されています。

 しかし、労災保険は、過失相殺減額の制度がない、傷害事案における支払上限額(120万円)がない(事故の相手方が任意保険に加入していなかった場合)など、自賠責保険より有利な面もあるため、労災保険を先行すべき場合もありえます。

 そのようなときには、事情を説明の上、労災申請を先行し、労災保険から給付を受けることが可能です。


 交通事故については、初回相談料は無料ですので、長野第一法律事務所まで御相談ください。