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過労死・過労自殺と労働時間

東京新聞の記事です。以下、引用。

 厚生労働省が昨年、過労死などの労災認定をする際の労働時間の算定について、一定条件下の仮眠を除外したり、持ち帰り残業で極めて厳しい基準をとるよう全国の労働基準監督署に通達していたことが分かった。労働時間のとらえ方を労災被災者らの救済を目的とする労災保険法でなく、法令を守らせる労働基準法に基づいていることを問題視する声も強い。労働時間が実態より過小に算定され、労災の「不認定」の増加につながる恐れがある。(久原穏)
 厚労省の意図について、過労死問題に取り組む弁護士でつくる「過労死弁護団」は「働き方改革と言いながら、労災認定が増えるのは不都合だからではないか。(労働者より)経営側に立つ政権の意向に沿うためもある」と推測する。
 通達は厚労省労働基準局補償課が昨年3月30日付で送った「労働時間の認定に係る質疑応答・参考事例集」。機密扱いだが、家族を過労死で亡くした遺族ら関係者の情報公開請求で明るみに出た。労働時間の調査の留意点のほか、教育訓練や出張、警備員らの仮眠時間、持ち帰り残業などへの対応指針を示している。
 労働法学者らが何より問題視するのは、労災の認定における労働時間を「労働基準法32条で定める労働時間(使用者の指揮命令下にある時間)」と限定的にとらえたことだ。労災保険法の趣旨や目的から外れ、労働者や遺族の救済が進まなくなると懸念する。

引用終わり。


 過労死・過労自殺事案においては、認定基準の改定によって、時間外労働以外の負荷もそれなりに考慮されるようになってきてはいるものの(例えば、脳心臓疾患についての令和3年9月の認定基準の改定)、やはり労災認定にあたっては、時間外労働時間が大きなウェイトを占めています。

 特に、脳・心臓疾患型の過労死については、時間外労働時間は大きな要素となっています。

 その場合なにをもって「労働時間」として捉えるのか、ということは大変重要になってきます。労基署はもともと形式的、硬直的な「労働時間」概念を採用し、使用者の「指揮命令下」という要素を重視してきました。背景には、最高裁が労働基準法上の労働時間について示した「労働時間」概念があります(いわゆる三菱重工長崎造船所事件最判平成12年3月9日)。但し、裁判所はこの「指揮命令下」という点について、実態に即して客観的に判断する傾向にあるのに対し、労災行政においては、厳格、形式的に判断する傾向(つまり労働時間の範囲をできるだけ狭めようとする姿勢)があることは以前から指摘されてきました。
 上記新聞記事で取り上げられた労働時間の認定についてのマニュアルは、その背景に労働時間の認定をさらに厳格にして、労災認定を狭めたいという厚生労働省の意図が透けて見えます。

 これでは、厚労省は本当に「働き方改革」に向かうつもりがあるのか、と批判されるのは当然ではないかと思います。このようなマニュアルを内々につくって、公表しないという姿勢も大変疑問です。

 とはいえ、厚労省のマニュアルには、現場の労災担当官への事実上の拘束力が生じます。
 不当違法な不支給処分(業務外)が今後ますます増えることが予想され、そのような事案は、裁判所での取消訴訟で争う意味が、より高まってくるものと思われます

(一由)