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「敷金」トラブル 2011年2月

 そろそろ引越のシーズンがやって参りました。これまで住み慣れた家や街とお別れするのも寂しいものです。時には、恋人と別れるときより辛いときもありますね・・・。
 今回はそんな引越の時によくある法律トラブル、「敷金」についてお話しします。

 敷金とは、一般的に賃貸借契約において賃借人の負担する債務の担保として賃貸人に交付されるお金のことを言います。借主から貸主に対してお礼の意味で交付される「礼金」とは違いますが、「権利金」や「保証金」といった「敷金」に似た性質のものもあります。
 なお、関西地方では、「敷金」と言いながら返還されない「敷引」という制度もあります。

 さて、引越の際には、明け渡した後に家主さんから「ハウスクリーニングは原状回復義務として敷金から差し引かせて頂きます。」などの通知を受けることがあります。
 では、この「原状回復義務」とは、どこまで借主は負わなければならないのでしょうか。
 畳の交換、壁紙の張り替え、床に付いた傷、タバコのヤニ、画鋲の跡など一体どこまで借主が原状回復義務を負い、「敷金」との相殺を主張されてしまうのでしょうか。
 この点につき、国土交通省住宅局住宅総合整備課が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」という指針を出しており、一応の参考になります。

 そもそも原状回復とは、「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を越える様な使用による損耗・毀損を復旧すること」をいい、自然損耗について借主は原状回復義務を負いません。
 分かりやすく言いますと、通常の使用方法に従って使用した場合の傷や汚れは、借主側が負担する義務はないということです。
 貸主は、賃料によって通常発生する傷や汚れをカバーするべきであり、「敷金」から差し引いてはいけないという考え方です。例えば、壁やクロスの汚れ、タンスなどを置いたカーペットのへこみ、冷蔵庫裏やテレビ裏などの壁の黒ずみ、壁にカレンダーを掛けた画鋲の跡は借主が負担する必要はなく、「敷金」からも差し引かれないことになります。
 一方、ヘビースモークによって壁全体が黄ばんでしまったり、不注意で壁に穴を開けてしまった、或いは畳をタバコで焦がしてしまった場合などは通常の使用とは言えないので、借主の負担になってしまうことが多いようです。
また、契約書にあらかじめ「ハウスクリーニングは賃借人の負担とする。」などの文言が一方的に書かれていた場合には、借地借家法や消費者契約法により、その条項は無効と主張することもできます。
 いずれにせよ、後々トラブルにならないように、入居時には汚れや傷を写真に撮ったり、大家さんとの間で事前に確認したりしておくことも大切でしょう。
 それでも万一、トラブルが発生した場合には、私たち弁護士にご相談下さい。

 恋人との別れも引越も、新たな門出として円滑に進めたいものですね。

(文責:宮下)