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刑事弁護とは①~映画「99.9-刑事専門弁護士-」の公開に合わせて~

 2021年12月30日に映画「99.9-刑事専門弁護士-」が公開されました。以前に放送されていたドラマに引き続き、嵐の松本潤さんが主演を務めるなど、注目度の高い映画となっています。
この映画の公開に合わせ、私が担当するコラムでは、刑事弁護について何回かに分けて紹介していきます。

〇逮捕されるのは犯罪者?
 警察が容疑者を逮捕した、というニュースが日々流れています。逮捕された人は犯罪者なのでしょうか。
 そうとは限りません。無実の人が逮捕されることは決して昔のことではなく、現在もなお起こっていることです。
 また、世界人権宣言や日本の憲法では、裁判で有罪が確定するまでは罪を犯していない人として扱わなければならないとされています(これを無罪推定の原則といいます)。
 ちなみに、先ほど「容疑者」という言葉を使いましたが、「容疑者」はマスコミの造語であり、法律では「容疑者」という言葉はありません。刑事事件に関する報道ではマスコミの造語が多用されており、裁判にかけられている人を「被告」というのもマスコミの造語です(正確には「被告人」です)。民事事件で裁判を起こされた人を「被告」と言いますが、同じ言葉で混同を招きやすいので、刑事事件で「被告」と言うのは止めてほしいと個人的には思っています。

〇無罪を証明?
 「起訴内容を否認し、無罪を主張しました」といったニュースが流れることがあります。では、起訴された人(被告人)が無罪を主張する場合、被告人がそれを証明しなければならないのでしょうか。
 結論から言うと、被告人は自身が無罪であることを証明する必要はありません。
 刑事裁判では、被告人が有罪であることの証明を検察官がしなければなりません。この証明は、常識的に考えて被告人が有罪だと断定できるということが必要です(「合理的な疑いを超える証明」などと言われます)。被告人が有罪だと断定することに疑問の余地が残る場合は、被告人を有罪とすることはできません。
 また、ひとつひとつの事実についても、その事実があったか否かが確信できない時は、被告人に有利に考えなければならないとされています(「疑わしきは被告人の利益に」などと言われます)。

〇弁護人は不要?
 裁判にかけられた人が犯罪行為をしたことを認めており証拠上も明らかな場合(いわゆる自白事件の場合)、弁護人は必要ではないのではないか、という指摘もお聞きすることがあります。
 しかし、弁護人には情状弁護という重要な役割があります。
情状弁護とは、単に量刑を軽くしよう、というものではありません。検察官や裁判官が目を向けないような事実に光を当て、被告人の犯罪行為に見合った刑事責任を明らかにすることこそが情状弁護の核心と言えます。
 情状弁護がなされなければ、被告人の犯罪行為に見合わない(過度に重い)刑罰が科されることになりかねません。このように、自白事件であっても弁護人は重要な役割を果たしています。


 次回のコラムでは、自分や家族が逮捕されてしまったときはどうすればいいか、といったことをご紹介しようと思います。

(坂井田)