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「相続財産管理人、特別縁故者への財産分与」

最近、何件か「相続財産管理人」「特別縁故者への財産分与」に関する事件を扱いました。

相続財産管理人・・・相続人の存在、不存在が明らかでないとき(相続人全員が相続放棄をした結果相続人がいなくなった場合も含む)に家庭裁判所が、関係者の申立てによって選任される財産の管理人。

特別縁故者・・・被相続人(亡くなった方)と特別の縁故関係があった人(法人も含まれる)。裁判所の判断によって、特別縁故者と認定された場合には、相続財産の一部または全部が分与される。

 生涯独身のままの方が亡くなり、ご兄弟などの相続人もいない場合には、相続人が見当たらない状況となり、親族の方などが事実上、自宅建物や土地の管理(草取りなど)、通帳の保管等を続けているケースがあります。
 また、お葬式の費用等を立て替えているけれども、そのまま精算できずに(金融機関は、預金者が亡くなると口座を凍結し、相続人の方がいないと払い戻しには応じてくれません)時間が経過してしまうことがあります。

 当面の間であればまだしも、半永久的に財産管理の責任を負うのも負担ですし、お葬式費用など立て替えた費用は、相続財産から精算してもらいたいと考えるのは自然です。
 また、何らかの理由で、故人にお金を貸していたという人(債権者)や自分は特別縁故者にあたるので、相続財産を分与してもらいたいという人もいるかもしれません。
 亡くなった方の不動産を担保に取っている金融機関が申立てをすることもあります。

 そこで、そのような場合には、「相続財産管理人選任の申立て」を行う必要があります。裁判所が職権で選任するということは予定されていませんので、誰か(利害関係人)が申し立てを行う必要があります。

 少子化が進行する日本の社会では、今後、相続財産管理人の選任が必要なケースが増加するのではないかと思います。

 以下のような方は、相続財産管理人選任の申立てをする必要があります。ぜひ当事務所にご相談下さい。

・親族が亡くなって、相続人が見当たらないため、事実上通帳の保管や土地の管理などを続けている
・亡くなった人の費用立替があるが、精算ができないままになっている
亡くなった人への貸付金等があって、預金や不動産があるが、支払いをする主体が不在となっている
・自分は、亡くなった方との交流が深かったが、特別縁故者として相続財産を分与してもらうことができるのではないか


特別縁故者への財産分与制度についてです。

 特別縁故者とは、民法958条の3に規定された制度で、昭和37年に創設された比較的新しい制度です。

具体的には、
「被相続人と生計を同じくしていた者(生計同一者)」
「被相続人の療養看護に努めた者(療養看護者)」
「その他被相続人と特別の縁故があった者」
とされています。

1 生計同一者 
  これはわかりやすいですね。被相続人と一緒のお財布で生活していたような実態があれば、通常は被相続人は自分の遺産はその人に渡したいと思っていたでしょう。典型例は、内縁の配偶者や事実上の養子などです。親族関係にある人が多いですが、親族関係になくてもかまいません。
  なにをもって生計同一であると認定されるかは、過去の判例等を参考に判断し、裁判所に認めてもらうためのポイントを整理の上、これを裏付ける証拠資料の収集や提出が重要となります。

2 療養看護者
  文字通り、被相続人の病気や認知症等の看護をしたり面倒をみていた人のことです。ただ、そのような方は、上記1の「生計同一者」であることが多く、その場合には生計同一者として認めてもらえれば良いため、療養看護者という類型で特別縁故者と認定されることはあまり多くないのが実情です。ただ、もちろん生計同一ではないが、療養看護者には当たるというパターンもありえます。
 これも、療養看護をしていたという本人の陳述だけではダメで、これを裏付ける客観的な資料をできる限り集めて、提出する必要があります。

3 その他特別の縁故があった者
  上記1、2は例示であるため、それ以外にも「特別の縁故」があったと裁判所が認めれば、財産分与の対象となります。具体的にどのような事情があれば認められるかということですが、一般的には通常の親族としての交際を超えるような貢献が必要とされています。単に「付き合いがあった」というレベルでは、特別縁故者にはあたりません。それだけに、どのような事実を主張するか、その裏付けをどうするかは上記1、2より様々なタイプがあり、証拠の収集にコツが必要となります。
 被相続人の推定意思(その方が自分の遺産の行方についてどのような意思を有していたか)をある程度重視する裁判所もあり、判断要素の取捨選択にも、経験豊富な弁護士の関与が必要です。

 自分が特別縁故者に当たる、という主張は、奥ゆかしい人ほど遠慮する傾向があります。
 それも一つの美徳ではありますが、債権者も見あたらず、特別縁故者への財産分与もない場合には、せっかくの相続財産が国庫に帰属してしまうことになります。

 私は、特別縁故者財産分与の申立ての代理人も相続財産の管理人も何件も担当したことがありますが、その経験上も、「おそらく亡くなった方は自分の遺産が国庫に帰属することは望んでいなかったのではないか」と思う事案が多くあります。遠慮せず、申立てをすることを検討されても良いのではないでしょうか。