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親亡き後の心配~信託制度の活用

Q わたしたち夫婦はすでに70代となり、自分の亡き後のことを考えることが多くなってきています。
 わたしたちには、長男が1人おりますが、長男には病気の影響によるものか、浪費癖があり、わたしたちの財産を相続した場合に、浪費したり誰かに騙されたりして生活に困ってしまうのではないかという心配があります。
 他に相続人もいないので、長男に自宅や預貯金を残してやりたいのですが、その使い方までをわたしたちの意思で決めておくことができますか?

A1 このような場合、遺言で、「○○銀行の預貯金は、月額10万円までしか使わないようにする」といった内容を書いておいても、法的な効力はないと考えられています。つまり、相続人である長男が、3000万円の預金を相続した場合、権利者である以上、いっきに3000万円をおろすことはできますし、銀行側が「遺言があるので、1ヶ月10万円までしかおろすことはできません」という形で長男の要求を断ることはできません。
 これは、自宅についても同様です。例えば、長男が騙されて、誰かの借金の保証人になって、自宅を抵当に入れる(いわゆる借金のかたにいれる)ということも、相続後であれば長男には自由にできてしまいます。誰かがそれを法的に監視して止めてくれるわけではありません。

A2 考えられる対応その1 成年後見制度の活用

 では、どうすれば良いのでしょうか?
 一つありうるのは、両親がご健在のうちに、長男に成年後見人を選任しておくことです。
 成年後見人が選任されると、ご本人(長男)の財産処分権が制限されるため、預金の使い方や不動産の管理処分は、成年後見人の判断となります。ご本人が勝手に処分することはできません。
 ただし、成年後見人は、ご本人の判断能力がかなり低下していることが条件になります。
 自分ではほとんどなにも財産管理ができない、ということが医師の鑑定や診断書などの客観的な証拠で認定できないと、裁判所は成年後見人を選任できません。
 ご質問のようなケースは、多くの場合、「財産管理能力に問題はあるが、成年後見のレベルにまではなっていない」というケースであって、成年後見制度が使えない場合も多いのです。


A3 考えられる対応その2 信託制度の活用

 成年後見人が使えない場合には、「信託」という制度を使うことが考えられます。
 信託は、文字通り誰かに財産を「信じて」「託す」というもので「信託法」という法律で認められている制度です。
 信託制度の特徴は、基本的なプレーヤーが3人登場する点です。

 委託者(いたくしゃ)・・・財産を受益者のために委託する人(事例では、ご両親)
 受益者(じゅえきしゃ)・・・信託による財産上の利益を得る人(事例では、長男)
 受託者(じゅたくしゃ)・・・委託者から財産管理を託されて受益者のために管理処分する人


 信託を設定すると、委託者の信託対象財産が、受託者に(形式上)移転します。
 しかし、受託者の個人的な財産になるわけではなく、あくまで法的処理の便宜上そうなるだけです。受託者は、信託の内容にしたがって、財産を処分したり管理したりします。例えば、信託された銀行預金3000万円から、毎月10万円をおろして、受益者である長男に渡すという方法です。

 信託は、「受益者の判断能力が低下している、病気である」ということは要件ではありません。
 この点が成年後見制度と違う点です。
 また、成年後見制度のように裁判所が関与しないため、手続や設計が柔軟にできるというメリットがあります。
 逆にいうと、きちんと信頼できる受託者を確保できるかどうか、受託者を監督する仕組みをどのようにデザインするか、受託者が先に死亡した場合にどうするか・・・ということを信託法の枠内でよく検討した上で、きちんとした信託契約書を作成する必要があります。

 また、信託制度については課税についても注意が必要です。

 このように、普通の遺言や成年後見では対応しづらいニーズにうまく応えられるのが信託の面白いところです。またこれらをうまく組み合わせることもできます。
 特に、事業承継でお悩みの方にも、信託を使うとうまく処理できる場合がありますので、事業を営んでいる方の相続にも、信託制度は有用です。


 相続でお悩みの方は、長野第一法律事務所にご相談ください。

(一由)