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他人の集めたデータの使用と著作権


 企業活動において、他人の収集したデータを活用したいことは頻繁にあります。
 例えば、自社の広告宣伝物に、インターネットでみつけたミュージシャンの年代別作品データを掲載したいと考えたような場合です。

(1)データと著作権
  この場合、まず、当該データに著作権が発生しているかどうかを考える必要があります。
 よく「データに著作権はない」と言われたりします。
 これは、基本的には正しく、単なるデータそのものは、事実であって著作物ではないため、著作権は発生しません。
 「著作物」とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(法2条1項1号)とされています。データは「思想又は感情を創作的に表現したもの」でないため著作物にあたらないのです。

 具体的には、過去10年間の長野市のある地点における気象状況のデータがあるとして、そのデータそのものはただの歴史的事実ですから、著作権は発生しません。
 同様に、あるミュージシャン(例えばビートルズ)が、何年にどのアルバムを発売し、そのアルバムに収録されていた曲名はなんであるかということを時系列で整理したデータも歴史的事実そのものであり、歴代のアメリカ大統領や日本の天皇についてのデータも同様となります。

 したがって、これを転載したり引用しても、基本的には著作権侵害の問題は発生しないということになります。これはそのデータの収集にどんなに費用や労力がかかっていても関係ないとされており、これを著作権法の世界では「著作権は額の汗を保護するものではない」といいます。
 中学生が10分で書いた絵には著作権が発生しても、企業が10年間かけて収集したデータそのものには著作権は発生しないのです。

(2)編集著作物、データベースの著作物
 ただし、データや情報を何らかの工夫で編集して、その素材の選択や配列、体系的構成によって創作性を有する場合にはその「データのまとまり」には著作権が発生することがあります。
 これを編集著作物、データベースの著作物といいます。
 例えば、マイルス・デイビスというジャズミュージシャンのアルバムデータについて、時系列順というありふれた整理ではなく、独自の観点(例えば共演者や使用している音楽手法に着目して)から整理し、編集するような場合です。
 あるいは、弁護士が日常的に使っている判例データベースソフトもその典型といえます。
 この場合には、「データのまとめかた」に創作性があるということで、著作物として保護されることとなります。

(3)著作権では保護されないが、法的に保護されるデータ
  創作性が認められないため著作物としては保護できないが、そのデータを無断で使用することについて損害賠償が認められることがあります。
  その著名な例が翼システム事件(東京地判平成13年5月25日)です。
  これは、膨大な種類の自動車のデータベースについて著作権が発生するかどうかが1つの争点となった事案ですが、裁判所は、以下の通り判示して、データベースの著作物であることを認めませんでした。

本件データベースは、原告が、日本国内に実在する国産又は国内の自動車メーカーの海外子会社によって日本国内販売向けに海外で製造された四輪自動車であると判断した自動車のデータ並びにダミーデータ及び代表データを収録したものであると認められるが、以上のような実在の自動車を選択した点については、国内の自動車整備業者向けに製造販売される自動車のデータベースにおいて、通常されるべき選択であって、本件データベースに特有のものとは認められないから、情報の選択に創作性があるとは認められない。 
 やはり「情報の選択に創作性がない」という理由で否定されています。
 これは網羅的なデータベースであればあるほど出現する悩ましい問題といえます。

 しかし、続けて裁判所は以下の通り判示して、民法上の不法行為が成立すると判断しました。

 民法709条にいう不法行為の成立要件としての権利侵害は、必ずしも厳密な法律上の具体的権利の侵害であることを要せず、法的保護に値する利益の侵害をもって足りるというべきである。そして、人が費用や労力をかけて情報を収集、整理することで、データベースを作成し、そのデータベースを製造販売することで営業活動を行っている場合において、そのデータベースのデータを複製して作成したデータベースを、その者の販売地域と競合する地域において販売する行為は、公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業活動上の利益を侵害するものとして、不法行為を構成する場合があるというべきである。これを本件についてみると、上記1認定のとおり、本件データベースは、自動車整備業を営む者に対し、実在の自動車に関する情報を提供する目的で、官報、年製別型式早見表、車検証等の種々の資料をもとに、原告が実在の自動車と判断した自動車のデータを収録したものであるが、証拠と弁論の全趣旨によると、このような実在の自動車のデータの収集及び管理には多大な費用や労力を要し、原告は、本件データベースの開発に5億円以上、維持管理に年間4000万円もの費用を支出していることが認められる。 

 著作権侵害ではないが、不法行為にはあたるというわけです。
 まさしく「額の汗」を保護した判断です。

 この判例のように、著作権侵害ではないとしても、不法行為にあたる場合があるということは、他人の収集したデータを利用する上で重要な観点となってきます。
 したがって、著作権の観点からだけでなく、一般不法行為の成否という観点からの検討も必要となるため注意が必要です。


  長野第一法律事務所では、著作権についてのご相談もお受けしています。

(一由)