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旧優生保護法を憲法違反とした最高裁判決

2024年7月3日、最高裁判所が旧優生保護法を違憲とする判決を言い渡したことが一斉に報道されました。

本稿では、旧優生保護法とはどういう法律だったのか、裁判ではどのような点が争いとなったのか、といったことを解説します。

 

1 旧優生保護法とは

 旧優生保護法は1948年に制定され、以後、約50年にわたり存在していた法律です。条文は全部で37条です。

 今回の裁判で争われたのは、同法3条1項1号から3号まで、10条及び13条2項の規定です。具体的な条文は次のとおりです。

 

第三条 医師は、左の各号の一に該当する者に対して、本人の同意並びに配偶者(届出をしないが事実上婚姻関係と同様な事情にある者を含む。以下同じ。)があるときはその同意を得て、任意に、優生手術を行うことができる。但し、未成年者、精神病者又は精神薄弱者については、この限りでない。

 一 本人又は配偶者が遺伝性精神変質症、遺伝性病的性格、遺伝性身体疾患又は遺伝性奇形を有しているもの

 二 本人又は配偶者の四親等以内の血族関係にある者が、遺伝性精神病、遺伝性精神薄弱、遺伝性精神変質症、遺伝性病的性格、遺伝性身体疾患又は遺伝性奇形を有し、且つ、子孫にこれが遺伝する虞れのあるもの

 三 本人又は配偶者が、癩疾患に罹り、且つ子孫にこれが伝染する虞れのあるもの

 

第十条 優生手術を行うことが適当である旨の決定に異議がないとき又はその決定若しくはこれに関する判決が確定したときは、第五条第二項の医師が、優生手術を行う。

 

第十三条 指定医師は、左の各号(※注 一号に、遺伝性精神病、遺伝性精神薄弱に罹つているもの、とあった)の一に該当する者に対して、人工妊娠中絶を行うことが母性保護上必要であると認めるときは、本人及び配偶者の同意を得て、地区優生保護委員会に対し、人工妊娠中絶を行うことの適否に関する審査を、申請することができる。

(中略)

2 前項の申請には、同項第一号から第三号の場合にあつては他の医師の意見書を、同条第四号の場合にあつては民生委員の意見書を添えることを要する。

 

2 裁判で争われた点

裁判で争われた主な争点は、①上記の各規定が憲法に違反していたか②改正前民法724条後段の定めが適用されるか、という点でした。

このうち、報道では①が主に取り上げられますが、私たち弁護士から見ると②の争点も非常に興味深い争点でした。

(1) ①について、最高裁判所は、次の点を指摘した上、上記の各規定は憲法に違反していたと判断しました。

・上記の各規定は、法律の個人の尊厳と人格の尊重の精神に著しく反するものであるから、これらの規定により不妊手術を行うことに正当な理由はない。

・特定の障害を有する者等を上記各規定による不妊手術の対象者と定めてそれ以外の者と区別することは、合理的な根拠に基づかない差別的取扱いにあたる。

(2) ②について、最高裁判所は平成元年12月21日判決において、民法724条後段所定の期間(20年)が経過した場合、裁判所は、当事者の主張を待つことなく、不法行為に基づく損害賠償請求権は消滅したと判断すべきである、としていました。このように、上記期間の経過により損害賠償請求権が消滅する以上、その消滅について当事者が何らかの主張をすることはできない、ともされていました。

  しかし、最高裁判所は、今回の判決にあたってその判断(判例)を変更しました。具体的には、上記期間の経過により損害賠償請求権は消滅するが、その権利が消滅したと裁判所が判断するには当事者の主張がなければならず、その請求権が上記期間の経過により消滅したものとすることが著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができない場合には、上記期間の経過による権利消滅を当事者が主張することは許されないと裁判所は判断することができる、との判断を示しました。

 

3 今後の展開

 今回の最高裁判所の判断を受け、岸田総理大臣は、判決に基づいた賠償の手続きを速やかに進める、としているようです(2024年7月7日現在)。

 違憲である旧優生保護法により手術を強制された方々の救済が早期に実現すること、そして障害者に対する偏見や差別が早期に解消されることを期待しています。(坂井田)

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