ブログ
やってないなら喋れば良い?!~黙秘権とは
ニュース番組などで「〇〇容疑者は一貫して黙秘を続けています」という報道を聞いたことがある方も多いかと思います。「憲法で黙秘権というものがあるのは知っているけど、やましいことがなければ説明すれば良いのではないか」「黙っているのは、説明ができないことがあるから、ボロを出さないようにしているのではないか」このように感じる方も大勢いらっしゃると思います。「黙秘権を行使することはけしからん」というような意見も耳にすることがあります。
では、なぜ黙秘権が保障されているのか。今回はこの点についてご説明します。
1 黙秘権の根拠
黙秘権の根拠となる条文は次のものが挙げられます。
憲法第38条第1項「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」
刑事訴訟法第198条第2項「前項の取調(検察官、警察官等による取調)に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない」
刑事訴訟法第291条第5項「裁判長は、第一項の起訴状の朗読(検察官による起訴状朗読)が終わつた後、被告人に対し、終始沈黙し、又は個々の質問に対し陳述を拒むことができる旨…を告げた上、被告人及び弁護人に対し、被告事件について陳述する機会を与えなければならない」
2 黙秘権を行使するとどうなるのか
取調べを開始する際、検察官や警察官は、法律に基づき、黙秘権があることは告知しますし、告知したことを供述調書にも残します。被疑者・被告人の供述調書の冒頭には、黙秘権があることを理解した旨が必ず出てきます。
では、黙秘権を行使すれば、取調べに応じる必要はないのでしょうか。残念ながら、実務の運用では、黙秘権を行使したとしても取調べは受けなければならないこととなっています。そのため、黙秘権を行使していても、取調室に連れていかれ、取調べを受けることになります。
黙っている被疑者に対してどのように取調べをするのかというと、事件とは関係なさそうな雑談をしてみたり、黙秘権を行使せずに供述をするよう説得してみたりするなど、あの手この手で供述をさせようとします。
逮捕・勾留されている場合は、最大で23日程度もこのような取調べを受けることになります(再逮捕されれば、その都度、期間は更に伸びていきます)。約3週間もの間、朝から晩までずっと黙っているというのは想像以上に難しく、どうしても話をしたくなるのが人情です。検察官や警察官は、これを狙っているのです。
また、説得といっても、優しく諭してくるわけではありません。怒鳴りつけたり、罵倒したり、人情に訴えかけてきたりすることもあります。
約3週間にわたって密室で人から罵倒され続けたらどうでしょうか。やはり、ずっと黙っているのは難しいものです。
3 やってないなら説明すれば良い?
ただ、やっていないことなら、自分はやっていないと説明すれば良いのでは?という疑問もあり得るところです。
しかし、検察官・警察官があなたを取り調べるとき、彼らはあなたが十中八九犯人で間違いないという確信を抱いていることがほとんどです。
彼らは、あなたの説明を聞きたいのではなく、あなたが犯人であることを認めさせたい(自白させたい)、といっても間違いではありません。
日常の会話を思い出してみても、〇〇に違いないと信じ込んでいる人に対して、〇〇ではないということを説明して納得してもらうというのは相当難しいことです。
ましてや、捜査のプロである検察官・警察官に反論し、説明し、納得してもらうことは至難の業と言えます。
やっていないなら説明すれば良い、というシンプルな話ではないのです。
捜査段階では黙秘権を行使して、法廷で裁判官に本当のことを説明するというやり方も十分ありえます。
黙秘権を行使し続けることは並大抵のことではありません。
黙秘権を行使するときは、弁護人が頻繁に面会に行って助言するなど、弁護人の活動が特に重要となります。
黙秘権の行使を侵害するような取り調べに対して弁護人が違法な取り調べを中止するように申し入れをしたり、勾留理由開示請求、準抗告その他の手法で裁判所を通じて間接的にコントロールすることも考えられます。
弁護人選任をご希望の方は、ぜひお早めに長野第一法律事務所にご相談ください。(坂井田)