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建設業特集8 建設工事の受注③~注文者の義務~
前回の記事では、受注契約における受注者の義務について、説明しました。
今回は、受注者とは反対の工事を発注する注文者の義務について説明します。
注文者の義務は、注文する側が注意しなければならないものというだけでなく、不当な工事の受注を防ぐため受注者となる建設業者も把握する必要があります。
※ 以下、「建設業法」は、「法」、「建設業法施行規則」は、「規則」といいます。
1 不当に低い請負代金の禁止
注文者には、「自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約を締結してはならない」(法19条の3)という義務が課されています。
※「事故の取引上の地位を不当に利用して」
・・・安値受注を受注者に強いることができる立場の注文者を指します。具体的には、入札の指名権を有する注文者や工事を多量かつ継続的に注文する大口の注文者などは該当する可能性が高くなります。
※「通常必要と認められる原価」
・・・直接工事費+共通仮設費+現場管理費+一般管理費(利潤を含まない)の合計額を指します。
この規定は、通常建設工事については、注文者の方が力関係が強く、その地位を不当に用いて、安い価格で受注を強いるおそれがあるので、設けられた規定になります。
また、原価に満たない額で請け負わせれば、建設業者の経営の安定を害するだけでなく、手抜き工事、不良工事の原因になるおそれや、下請業者・労働者へのしわ寄せ・事故の危険が生じることにもつながります。
このため、できるだけ安く発注したいという気持ちがあっても、取引上の地位を利用して原価未満の金額での契約締結を行ってはいけません。
なお、違反があった場合は、法19条の6による国土交通大臣又は都道府県知事の勧告・公表や、独占禁止法の排除措置等の対象になります。また、公共工事の入札に関しては、入札適正化法の規制を受けます。
2 不当な使用資材などの購入強制の禁止
注文者には、「請負契約の締結後、自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事に使用する資材若しくは機械器具又はこれらの購入先を指定し、これらを請負人に購入させて、その利益を害してはならない。」(法19条の4)という義務が課されています。
※「利益を害する」
・・・金銭面及び信用面に損害を与えることを指します。
具体的には、予定していた資材よりも高額で購入せざるを得ない場合や、購入済み資材の返却により、取引先の関係が悪化した場合を指します。
本規定は、“請負契約の締結後”にのみ適用されます。これは、締結前であれば、指定した分を見積に入れれば足りるからです。
この場合も、1同様に違反者は勧告等の対象になります。
3 著しく短い工期の禁止
注文者には、「その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる期間に比して著しく短い期間を工期とする請負契約を締結してはならない。」(法19条の5)という義務が課されています。
※「通常必要と認められる期間に比して著しく短い期間」
・・・令和2年7月中央建設業審議会勧告の「工期に関する基準」(令和6年3月27日改定)等に照らして不適正に短く設定された工期を指します。
令和元年の法改正により新設された義務であり、建設業界の長期間労働の防止、それに伴う事故防止や、担い手確保のための規定になります。
同条違反の場合も、勧告等の対象になります。
4 適切な見積条件の提示及び見積期間の設定、情報提供の義務
注文者には、「請負契約の方法が随意契約による場合にあっては契約を締結するまでに、入札の方法により競争に付する場合にあっては入札を行うまでに、第十九条第一項第一号及び第三号から第十六号までに掲げる事項について、できる限り具体的な内容を提示し、かつ、当該提示から当該契約の締結又は入札までに、建設業者が当該建設工事の見積りをするために必要な政令で定める一定の期間を設けなければならない。」(法20条4項)と言う義務が課されています。
また、「当該建設工事について、地盤の沈下その他の工期又は請負代金の額に影響を及ぼすものとして国土交通省令で定める事象が発生するおそれがあると認めるときは、請負契約を締結するまでに、建設業者に対して、その旨及び当該事象の状況の把握のため必要な情報を提供しなければならない。」(法20条の2)という義務も課せられています。
これらは、いずれも見積落とし・実際の施工時のトラブルを防ぐための規定です。
なお、建設業法施行令により、「見積りをするために必要な政令で定める一定の期間」は、以下のとおりに定められています。
① 工事1件の予定価格(以下「予定価格」といいます。)が500万円未満
⇒1日以上
② 予定価格が500万円以上5000万円未満
⇒10日以上
③ 予定価格が5000万円以上
⇒15日以上
ただし、やむを得ない場合は、②,③の期間を5日に限り短縮できます。
5 監督員の選任通知
・・・監督員?いきなり出てきて、かつ法律上定義のない者ですが、契約上設置される者であり、注文者の工事現場における代理人を務める者を指します。
常に設置されるものではありませんが、監督員を置く場合、注文者には、「当該監督員の権限に関する事項及び当該監督員の行為についての請負人の注文者に対する意見の申出の方法(第四項において「監督員に関する事項」という。)を、書面により請負人に通知しなければならない。」(法19条の2第2項)という義務が課せられます。
なお、請負人の承諾があれば、電子的手段(メール等)でも可能です(同条第4項)。
監督員自体の定義が法律上無いので、権限の範囲等を明示する必要があるための規定になります。
6 今回の説明は、以上になります。
(注文者兼元請負業者という場合は、もっとありますが、その辺りは下請の話で行います。)
注文者にとって特に大切なことは、不当な発注を行わないというシンプルなものになります。
注文者となる方は、禁止事項に反しないように今回説明した点に関して、十分に注意してください。
次回は、建設請負契約において非常にトラブルになりやすい下請負契約について説明していきたいと思います。
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