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株券は発行しなくて良いと思い込んでいませんか?
しばらく前に株式会社は株券を発行しなくても良くなったと聞いたし、これまで株券を発行したこともないから、これまで通りにしていれば問題ないだろう、とお考えではありませんか?
何も問題が無く、会社が上手く回っているときはそれでも良いかもしれません。しかし、この考えでは、事業承継のときなどにトラブルを招きかねません。
本稿では、株式会社における株券の発行に関する規定について整理するとともに、令和6年4月19日の最高裁判所判決をご紹介します。
1 株券発行に関する規定
(1)株券発行会社にあたるか
平成18年に施行された会社法では、株式会社は株券を発行しないのが原則とされ、定款で定めを置くことにより株券を発行することとされています(会社法第214条)。このため、平成18年以降に設立された株式会社については、定款に株券発行の定めがない限りは、株券を発行する必要はありません。
では、平成18年より前に設立された株式会社についてはどうでしょうか。これまでに一度も株券を発行したことが無いのであれば、今後も株券を発行しなくて良いのでしょうか。
この点、平成18年より前に設立された会社については、株券を発行しない旨が定款で定められていなければ、株券を発行する旨の定款があるものとみなす、とされています。もし、ご自身が関与する株式会社があれば、その商業登記簿を取得してみてください。登記簿の中に「当会社の株式については、株券を発行する」との記載があれば、株券発行会社に該当する、ということになります。
(2)株券発行会社は必ず株券を発行しなければならないか
株券発行会社は、原則として、遅滞なく株券を発行しなければならないとされていますが、例外的に、非公開会社(株式の譲渡制限がある会社)については株主から請求があるまでは株券を発行しないことができる、とされています(会社法第215条第1項、同第4項)。
中小規模の会社は非公開会社とされていることが大半であり、身内が株主となっていることも多いため、敢えて株券を発行してほしいと請求する株主がおらず、結果として株券が発行されないままとなっていることがほとんどだと思われます。
2 株券が発行されていない会社の株式の譲渡
(1)譲渡の効力
これまで株券を発行していない非公開会社であっても、事業承継などのために株式の譲渡をすることがあります。ところが、会社法第128条では「株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じない」(第1項)、「株券の発行前にした譲渡は、株券発行会社に対し、その効力を生じない」(第2項)と定められています。
では、株式の譲渡人が心変わりし、株券を交付していないのだから株式の譲渡は無効である、取引は無かったことにしてほしい、と主張した場合、その主張が認められるのでしょうか。
この点、会社法第128条1項をそのまま読むと、この主張が認められるとも考えられそうです。しかし、最高裁判所は「株券の発行前にした株券発行会社の株式の譲渡は、譲渡当事者間においては、当該株式に係る株券の交付がないことをもってその効力が否定されることはないと解するのが相当である」と判示し、この主張を認めませんでした。
(2)譲受人はどのようにして株券を入手するのか
先述した最高裁の判示は、当事者間では譲渡が有効だと述べたものに過ぎません。当事者間で譲渡が有効であっても、会社法第128条第2項により、会社との関係では効力がありません。
そのため、譲受人は、会社に対して、株券を発行せよと直接請求することはできないこととなります。そうすると、譲受人は、譲渡人に対して、株券を引き渡せ、と請求することになりますが、会社が株券を発行しておらず、株券が譲渡人の手元に存在していない以上、この請求をしても株券の入手は実現できません(損害賠償請求ができるに止まるものと考えられます)。
では、譲受人は株券を入手する手段はあるのでしょうか。この点、最高裁判所は「株券発行会社の株式の譲受人は、譲渡人に対する株券交付請求権を保全する必要があるときは、(債権者代位権)により、譲渡人の株券発行会社に対する株券発行請求権を代位行使することができると解するのが相当」であり、譲受人が代位行使する場合は「株券発行会社に対し、株券の交付を直接自己に対してすることを求めることができるというべき」であると判示しました。
つまり、株式の譲受人は、会社から直接株券の交付を受けることができる、ということになります。
株券を発行したことがない会社であっても、株券発行会社となっていることはよくあります。
事業承継の際は、事後的なトラブルを防ぐためにも、会社が株券発行会社になっているか否かを確認することが不可欠です。
ご不安がある場合は、ぜひ、長野第一法律事務所へご相談ください。(坂井田)