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 長野での弁護士生活(3) 2011年9月

 とある経緯で、司法試験受験情報誌の「受験新報」(法学書院)という月刊誌に「弁護士北から南から」という連載を担当させていただく機会がありました。

 受験生向けのコラムですが、弁護士の日常を分かりやすく記載しておりますので、先々月から3回に分けてホームページでもご紹介させていただきます。最終回となる今回は私が所属している事務所の雰囲気やこれから地方で活躍する弁護士を目指す皆さんにメッセージを述べたいと思います。
 なお、文章は「受験新報」に掲載されたものをそのまま引用しております。(文責:宮下)

第1 事務所の雰囲気

  1.  私の所属している弁護士事務所は、弁護士5名、事務局7名の総勢12名である。都会であれば中小の規模であるが、長野では大きな事務所である。
     所長は弁護士40年のベテランで、私を含めて登録2年~5年の弁護士が4名いる事務所である。事務員もベテランから若手まで様々で、多種多様で難解な事件も解決に向けてサポートしてくれる体制になっている。
  2.  とても風通しが良い事務所で、分からないことがあれば所長のみならず、先輩弁護士や後輩弁護士も様々な知恵を貸してくれる。特に弁護士になりたての頃は法律論では司法試験の知識等で勉強しているものの(最近はそれすら忘れがち…)、手続や最終的な「落としどころ(事件解決の終着地点)」についてはやはり経験がものをいうので、遠慮なく教えていただいた。これ以上聞くと迷惑がられて嫌な顔をされるかと心配もしていたが、これまで3年間は大丈夫であった。

  3.  また、事務員さん達も若手弁護士よりも経験豊富な分野も多く、分からないことがあっても一緒に考えてくれたり調べてくれたりと頼もしい存在である。
     とりわけ、裁判所への手続書類や破産事件の処理については、いつもこちらが聞いてばかりである。
     事務所では毎月1回のペースで勉強会を開き、破産手続、成年後見、年金分割などテーマを決めて意見や質問を出し合うなど、活発に研修を深めている。ちなみに、勉強会では、事務所のパン焼き器で焼いたパンを食べたり、依頼者からいただいたお茶菓子を食べながら和気藹々と楽しく参加できるのが楽しみの1つでもある。

  4.  弁護士の執務場所はパーテーションで区切られてはいるが、若手4人の弁護士が並んでいるため、お互いが電話をしていれば、どのような事件を処理しているのか分かる。逆にそのことで他の弁護士がどんなことをやっているのかも把握でき、アドバイスや協力をもらえることもある。
     主に受任する事件は一人で担当することが多いが、住民訴訟や大型事件、複雑難解な事件等は複数の弁護士で担当している。また、裁判員裁判事件も、複数選任が認められれば共同で受任することが多い。パーテーションの横から顔を出せば、直ちに弁護団会議ができるのである。

  5.  仕事以外では、定期的に事務所旅行や飲み会、事務所でのバーベキューなどが開催される。特に、事務所の屋上からは長野市が一望でき、夏のバーベキューにはもってこいである。バーベキューの日には朝から所長が七輪を前に炭と格闘し、ビールサーバーまで借りてくる気合いの入れ様である。
     今年も早くバーベキューの季節が来ないかと今から待ち遠しい。

  6.  以上のように、事務所の雰囲気は仕事はもちろんのこと、仕事以外についても居心地が良く、恵まれた環境であるとつくづく感じさせられる。
第2 今後地方での弁護士を目指す方へ

  1.  連載1回目にも記載したが、当初、私は東京での弁護士を目指していた。しかしながら、長野で弁護士を始めてみて、改めて良かったと感じている。
     なぜなら、東京で就職した同期の友人の話を聞いてみると、刑事事件は年に2~3件しか担当できず、また、登録1年目から破産管財人に選任されることはまずないという。地方では裁判員裁判も頻繁に回ってくる。
     もちろん、最先端の専門分野の事件や華々しい企業法務などは東京などの大都市に多いことは事実であるが、様々な事件を数多くこなすことによってより弁護士としてのスキルを高められるのも地方ならではだと思う。
     それだけではなく、弁護士、裁判官、検察官との距離も近く、若手でも三者協議や懇親会に積極的に参加でき、親睦も深められる。

  2.  そして何より、地方での良さは困った市民の方々と直に接し、その地域や文化に触れながら人々が抱えた悲しみや苦しみを笑顔に変えていけるやりがいがあることである。
     最近は地方でも本庁所在地の弁護士数も一挙に増えてきて、次第に都会化しているが、地方の支部ではまだまだ弁護士が足りていない場所が全国には沢山存在する。長野県の小規模支部もそうである。
     既に都会では弁護士が増えすぎて、一人当たりの事件数も減り、就職すら困難な状態を迎えているが、だからこそまだまだ弁護士が足りていない過疎地域での弁護士登録はやりがいに充ち満ちており、経済的にも十分に採算が合う。私も近々、出身の長野県南部(南信地方)で独立開業し、地元の人の役に立ちたいと思う。

  3.  偉そうなことを言える立場ではないが、これからの弁護士は都会や地方も関係なく専門性が必要であると思う。このように言うと先ほどの「地方では様々な事件を数多くこなす」との記載と矛盾するかに思われるが、やはり事件が複雑化、高度化する昨今においては、自分の得意分野を持ち、それを他の事件に応用する力も必要だと思うからである。
     もちろん、全ての分野においてスペシャリストであることに越したことはないが、日々の業務をこなしながら、全ての専門分野を極めることはとても困難である。今の自分に専門性があるとは全く思わないが、だからこそ自分への戒めも込めていずれ目標を決めて達成していきたいと思う。そして、現在は委員会活動や公益的活動を通じて、ライフワークとしての自分の目指すべき専門分野を探している最中である。

  4.  最後に、これから地方での弁護士を目指す方にメッセージを送るとするならば、皆さんがもし「困っている人を助けたい」、「困っている人の相談に乗りたい」という思いから弁護士を目指しているのであれば、是非、都会から離れた地方とりわけ過疎地域に飛び込んで行って欲しいと思う。そこには、まだまだ弁護士にも相談できず、泣き寝入りせざるを得ない方々が大勢いるからである。
     そして、依頼者の話を親身になって聞き、自分の足で証拠を集め、最後まで依頼者に寄り添える情熱を持った弁護士が多く誕生することを心待ちにしている。私も、そんな皆さんに負けないように頑張りたい。

(おわり)